今回の新作の舞台は久々に自衛隊!
と、言っても航空自衛隊航空幕僚監部広報室が舞台ですので、戦闘シーン等は全く御座いませんし、特殊ミッションもスパイアクションも怪獣の登場も御座いませんが、それ以上に生の自衛官により近い、リアリティのある小説に成っていると思います。
空飛ぶ広報室 有川浩
2004年〜2007年に書けて書かれた自衛隊三部作とは異なり、現実の自衛隊を描いた作品です。
自衛隊を描いた物語としては、結構骨太で、書くべき事、作者が訴えたい事が読み手に正確に伝わるよう、熱く語られてます。
とは言え、キャラを生んで動かせば当代きってのストリーテラーの有川浩さんですので、非常に伝え方は上手いです。
生で暑苦しく主張する様な事は全く無く、各々のキャラクターが自分の言葉で伝え、その行動が著者の主張を見事にプレゼンテーションしています。
この辺りの筆の運びはますます腕が上がったかな、凄いです。
勿論歯痒く成る様なラブコメの展開は見事なまで変わらず(いや、もうこれは一つのスタイル)、しかし、仕事に対する精神的苦悩、周りとの人間関係も正確に読み手に伝わってきます、重く無いのに。
説教じみた話も全く無く、講釈の羅列も無く、よくもまぁ軽いタッチで読み易く、この骨太の主張が出来るものだと(図書館戦争の時もそうでしたが、本当に上手い!)感心させられる事頻りでした。
ストーリーも重い話では無く(巻末の書き下ろしを除く)楽しく物語の世界に遊ぶ事が出来ます。
主人公の不器用な恋愛模様も心配しつつ、、、
この作者さんの自衛隊に対する姿勢は、本当にニュートラルで頭が下がります。
自国の防衛軍に対して敬意を表さない変わった国民は日本人位ですから、、、
武力による紛争解決を目論む他国がある限り、自衛権を放棄するのは国の崩壊に繋がるとクマは思って居りますので。侵略は論外ですが。
(そんな不経済な事、今時正気の国はしないって、、、)
本来、2011年の夏に刊行される筈であった本書の刊行が遅れたのは、震災があった為です。
作者が震災後の航空自衛隊松島基地(ブルーインパルスの母基地でもあります)の震災後の有様に触れないまま刊行出来ないと思い、書き下ろしが加えられ、2012年夏に刊行されました。
それ程、作者の気持ちが感じられる本書です。
最後に後書きの作者の言葉を引用させて頂きます。
「自衛隊をモデルに今までいろいろな物語を書いてきましたが、今回ほど平時と有事の彼らの落差を思い知らされた事はありません。
ごく普通の楽しい人たちです。私達と何ら変わりありません。しかし、有事に対する覚悟があるという一点だけが違います。
その覚悟に私たちの日常が支えられているということを、ずっと覚えていたいと思います。」