ほんわかした日常の描写、それもスリリングな事も確たる事件も無い、でも少し変わった人間関係。
結構軟らかい話ですが、そこにある様な話。
情景描写、感情描写が諄く無く、あっさりしているが故に読み手が色々な想いを込める事が出来る、そんな書き方の小説です。
それ故、好みは分かれるとは思いますが、、、
昨夜のカレー、明日のパン 木皿泉
「BOOK」データベースより
「悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ―。七年前、二十五才という若さであっけなく亡くなってしまった一樹。結婚からたった二年で遺されてしまった嫁テツコと、一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフは、まわりの人々とともにゆるゆると彼の死を受け入れていく。なにげない日々の中にちりばめられた、「コトバ」の力がじんわり心にしみてくる人気脚本家がはじめて綴った連作長編小説。」
作者の木皿泉さんは脚本家で、10年程前のテレビドラマ「すいか」の脚本を書かれています。
このドラマも独特の空気感と雰囲気があって、結構個人的には気に入っていたのですが視聴率は取れず、、、
でも向田邦子賞を始め、結構通受けする賞を受賞しています。
その後も「野ブタ。をプロデュース」、「セクシーボイスアンドロボ」、「Q10」等の脚本を書かれていますが、売れている脚本家さんにしては寡作。
(更に遅筆だそうです、、、)
そんな方の小説です。
ですから、一般的な小説の描き方とはほんの少し色が違います。
脚本的というか、ほんの少し役者さんや演出家が解釈して表現する糊代の様なものを残してあるというか、感情描写や情景描写が比較的あっさりしていて、読み手の感覚が入り込む隙間が広目です。
この辺りは合わない方もいらっしゃるかも知れませんが、個人的には説明的で無く気に入った部分です。
そうそう、作者の木皿泉さんですが、和泉務さんと妻鹿年季子さん、御夫婦の合作上のペンネームです。
脚本は、御二人でキャラ設定等を発案した後、ひたすら妻鹿年季子さんが執筆し、行き詰まると和泉務さんがアイデアを捻り出すと云う独特のスタイルで世に出ているそうですが、多分この小説も同様かと。
良い意味で女流作家の情緒的な筆だと思います。
ただ、語り過ぎたりのめり込んだりしていない。
ほんの少しキャラクターから間合いを取った立ち位置で書かれていて、この案配が独特の空気感を生んでいる様な気がします。
それはキャラクター間の間合いにも影響していて、距離感が程良い感じです。
勿論、登場人物の設定自体、若干変な部分はあるのですが、それが読み手に尾を引く違和感として残らず、描写故に何と無く受け入れさせて物語り世界へ引き込む事に上手く成功していると思います。
ですから、何と無く読んで何と無くほっこりする小説、そう言っても良い小説かと、、、
生活に疲れたり心がささくれ立っている時に読むと、何と無く救われる様な、そんな癒やし系の小説です。
結構楽しめますよ。