まぁ、元々小路幸也さんの小説が好きなのと題名で買いましたが、この小説、一定の年代の人間にはツボの様な小説だと思います。
外れた年代の方には今ひとつ此の感覚は伝わらないかも知れませんが、、、
ウルトラマンやウルトラセブンを夢中に成って観ていたそこの貴方、是非読んでみて下さいませ。
懐かしいあの頃の、昭和の空気が感じられますよ。
怪獣の夏 はるかな星へ 小路幸也
帯より
「1970年夏、地球の危機を救うのは子供たちだ!?」
「人気作家、初の怪獣小説!」
「ブラウン管の中の怪獣たちは皆、恐ろしい形相をしていた。ヒーローたちは皆、無表情だった。(中略)
かいじゅうはただ現れるのではない。ヒーローはただ倒しているのではない。その動かない顔の奥に隠された怒りと涙と苦悩。
有史以来、人が語り続けてきた〈光と影〉の物語。
そのひとつの形を、素晴らしい結晶のような物語を、僕たちは子供時代にシャワーのように浴び続けることができた。光の温かさと美しさを感じることができた。その影の恐ろしさと悲しさを知ることができた。
全ての制作者と、生み出された物語に感謝を込めて。」
舞台は1970年、昭和45年の夏のとある街。
丁度、大阪万博が開催され、未来への希望に胸を膨らませていた頃。
そして、その反面、公害が問題と成って来た頃。
(「ゴジラ対へドラ」は1971年の封切りです)
テレビを点けると、ウルトラマンやウルトラセブンが怪獣と戦っていたあの時代を、見事に切り取って見事なジオラマに仕立てた様な小説です。
その時代に子供だった方には実感として読み進められる小説であり、感覚的に嵌まるストーリーです。
(そうで無い世代の方が読むと、どうなんでしょう? ピンとこないかも知れません)
直接的な戦闘シーンの描写も無く、科特隊も出て来ませんが、路地裏や広場、公園で怪獣ごっこをした、あの感覚で物語は進んでいきます。
現実と幻想が入り混じりながら、懐かしいあの頃の昭和の描写にタイムスリップした感覚を保ちつつ、作品世界に入っていったのは、矢張りクマが1960年生まれだからだと思います。
そして、ウルトラマンやウルトラセブンで、常に怪獣が悪でウルトラマンが正義の様に描かれていたのでは無く、ヒーローも苦悩し宇宙人側にも理があった、あれらのストーリーそのままに、どちらが絶対的正義とも言えない仕立てで物語は盛り上がっていきます。
(「ウルトラセブン」第8話「狙われた街」でのメトロン星人とウルトラセブンがちゃぶ台を挟んで論議する、あのシュールなシーンを始めとして様々な名シーンが脳裏にフラッシュバックしました、この小説を読んでいる間)
まぁ、作者である小路さん(1961年生まれ)も、楽しんで筆を進められたのでしょう。
そこやあそこにオマージュとしてのシーンや台詞が隠されています。
大体、主人公の子供達の名前が「ナナロー」「マット」「ユリコ」「アキコ」ですし、関わる青年が「ハヤト」、写真館の御主人が「キリシマ」ですもの。
(以上の名前にピンと来ない方は、、、読んでも楽しく無いかも知れない小説かも知れません、、、)
とある街の一夏の幻想的な物語、読み手によってはとても気に入ると思います。