池井戸さんの小説としては単行本で2004年3月初版ですので、初期の作品に属するものでしょうか。
企業小説、銀行小説のプロとしての地位を確立する前の作品故、色々な要素が鏤められており、結構新鮮に楽しめます。
株価暴落 池井戸潤
裏表紙より
「巨大スーパー・一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東は企画部の二戸と対立する。一方、警視庁の野猿刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追いこまれていた。傑作金融エンタテイメント。」
連続爆破事件それを追う警察と逃亡する被疑者との犯罪ドラマ、爆破事件によって経営困難に成った企業と銀行との企業ドラマ、それらが上手く入り組んで話が流れていきます。
そして、上手くどんでん返し感のあるラストへと運んでくれます。
下手をするとフォーカスが二つある為に纏まりの無い作品に成っても不思議は無いのですが、その辺りは流石に上手く筆が運んでくれます。
基本構成をしっかりした上で時系列に混乱が生じない様に書かれてますので、読み手の方も頭の中がごちゃごちゃに成らずに物語を楽しめます。
いや、今の人気が今更の様に当然に思えますね、初期の作品でこうなのですから。
それにしても、池井戸さんの作品の基本である、「正義は勝つ!」は本作品でも同じです。
きっちり原理原則に基づき職務を全うする「正義の味方」、実社会では時として煙たがられ、KYの様に扱われ、馬鹿を見る事も少なくありません。犯罪すれすれ、いや、露見すれば犯罪行為ですら本音の部分では罷り通る事すら在るのが実社会。
多分池井戸さんは、銀行員としてそんな嫌な部分を多々見てきたが故に、物語では「正義」を勝たせるのかと。
そしてそこが、同じ様に実社会の矛盾を感じながら生きている読み手に共感とカタルシスを生むと思います。
だから支持されるのでしょうね、この方の作品。
しかし、経済関係には全く明るく無いクマにとって、ラストの謎解き部分で読み取れる解答は、全く予想外でした。
完全に作者の術中に嵌まりましたね。
基本的に上手の筆でサクサク読める小説ですし、読後の爽快感もこの作家さんの常で御約束出来ます。
仕事で疲れた時などに如何でしょうか。