法医学と言えば、小説界では隠された殺人の謎を解く飛び道具の様な学問。
これを素材にした名作も沢山在ります。
相変わらずキャラの立て方の上手い中山さんが、切れの良い筆でこれに挑んでいますが、中々の快作です。
まぁ、若干の問題点はあるのですが、それは後程、、、
ヒポクラテスの誓い 中山七里
帯より
「あなた、死体は好き?」
「凍死、事故死、病死……何の事件性もない遺体から偏屈な 老法医学者と若き女性研修医が導き出した真相とは?」
「死者の声なき声を聞く迫真の法医学ミステリー!」
「栂野真琴は浦和医大の研修医。単位不足のため、法医学教室に入ることになった。真琴を出迎えたのは法医学の権威・光崎藤次郎教授と「死体好き」な外国人准教授キャシー。傲岸不遜な光崎だが、解剖の腕と死因を突き止めることにかけては超一流。光崎の信念に触れた真琴は次第に法医学にのめりこんでいく。彼が関心を抱く遺体には敗血症や気管支炎、肺炎といった既往症が必ずあった。「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」という。なぜ光崎はそこにこだわるのか―。解剖医の矜持と新人研修医の情熱が、隠された真実を導き出す―」
テンポの良い構成で、一気に読まされます。
連作短編と思いきや、実はラストへ繋がる話で、、、
この辺りはどんでん返しが御約束の中山さんですので、ファンとしては定番の進行ですね。
描写も細かく、相当調べて書かれたのか解剖シーンや謎解きの解析もリアルです。
それが嫌みにならず上手く調和しているのはこの方の筆の上手い所かと。
相変わらずのファンサービスとしては今までの作品と登場人物が被ります。
渡瀬警部に古手川刑事(この辺りは以前ブログで「
テミスの剣」に関して書いた記事で詳しく触れました)、確か本作の主人公の光崎藤次郎教授もどれかの作品で登場していた様な気が、、、
人物像が出来上がっている強みで、ファンとしては行動や発言の意図が裏読み出来てとても楽しめます。
勿論、本作が初めてでも何の問題も無く読める程に登場人物のキャラは立ってますが、、、
取り分け、死体好きの准教授、キャシーが今回新登場ながら凄く上手くキャラ立ちしてます。
西洋人と日本人の死生観の違い、死体に対する感覚の違い、医学は飽く迄西洋的科学である事を自然な形で見事に浮き彫りにしてくれます。
本格的なミステリーとして十分に読める本作なんですが、前提の流れが集約されるラスト辺りが若干弱い印象を個人的には持ちました。
若干の取って付けた感がある様な、、、
まぁ、個人的感想なんですが、、、
で、その詳しい話はネタバレ要素を含みますので以下に、、、
ロセフィンとカルシウム同時投与による血栓形成、それが死因に関係している様な記載がありますが、、、
確かにセフトリアキソン-カルシウム塩を形成します(海外でそれが原因の新生児死亡例が5例報告されてますが、新生児の血液量はとても少ないので血中濃度が全く異なります)が、成人での血栓形成報告は無く(韓国公使の急死の話は有名ですが、結局、心筋梗塞が死因でロセフィンの関与は不明と云う公式発表が出てます)、細胞外液に含まれているカルシウム程度なら生態の正常濃度と大差無く、、、
ロセフィン投与で、死人の山なら判りますがそんな話も無く、、、
このトリック、根本的に???
更に、看護師さんが採血しているのと反対側の腕に津久場教授が注射って、普通、採血する時って両腕確認しますわな、、、
なので、オチの謎解きが全部ドッチラケだったのが何とも、、、
非常に緻密な描写できていたのが、最後にもの凄く雑な話に成ってますので、これは一寸、、、
もう少し練って欲しかったですね。
中山七里さんの小説の中でも読み易く、楽しめる小説だと思います。
宜しければ(^o^)