警視庁捜査一課の犬養隼人刑事を主人公にしたシリーズの第3冊目。
「
切り裂きジャックの告白」が長編、「
七色の毒」が短編集と来て、本作は再び長編です。
ラストのどんでん返しが一応売りの作家さんですが、本作では然程その感は強く無く、どちらかと云うと社会派啓蒙小説として仕上がっています。
娯楽小説として十分に楽しめますが。
ハーメルンの誘拐魔 中山七里
帯より
「前代未聞の少女連続誘拐。身代金は70億円。孤高の慶次が完全犯罪に挑む。大人気「刑事犬養隼人」シリーズ最新作!」
「俺たちの働きに、少女の命と日本警察の面目が懸かっている。」
「病院からの帰り道、母親が目を離した隙に15歳の少女・香苗が消えた。現場には中世の伝承「ハーメルンの笛吹き男」の絵葉書が残されていた。警視庁捜査一課の犬養隼人が捜査に乗り出し、香苗が子宮頚がんワクチン接種の副作用によって記憶障害に陥っていたことが判明する。数日後、今度は女子高生・亜美が下校途中に行方不明になり、彼女の携帯電話と共に「笛吹き男」の絵葉書が発見された。亜美の父親は子宮頚がんワクチン勧奨団体の会長だった。ワクチンに関わる被害者と加害者家族がそれぞれ行方不明に。犯人像とその狙いが掴めないなか、さらに第三の事件が発生。ワクチン被害を国に訴えるために集まった少女5人が、マイクロバスごと消えてしまったのだ。その直後、捜査本部に届いた「笛吹き男」からの声明は、一人10億、合計70億円の身代金の要求だった…。」
縦糸は子宮頚癌ワクチン、横糸は完全犯罪を目指す誘拐犯罪。
上手く織りあがっています。
ただ、全体を読んだ印象としては誘拐犯罪の謎解きよりも子宮頚癌ワクチンの副作用問題の啓発の感の強い小説です。
AIの啓蒙のため綴られた海堂尊さんのバチスタシリーズに似た印象です。
勿論採り上げている問題は全く異なりますが、どちらも小説として十分楽しめる形をとった上でメッセージを上手く伝えていると思います。
子宮頚癌ワクチンの問題は判じる事が難しいとは思います。
ただ、少なくとも10万人に31.2人に重篤な副作用が認められる事、ヒトパピローマウイルスの16型と18型に対するワクチンなので予防可能なのは50〜60%である事。
1年に1〜2回の子宮頚癌健診で非常に高率に癌は発見され、その場合の救命率が高い事。
以上から、本当に任意接種で無く法定接種にすべきかなのかは(現在法定接種です)以前から論議のある所です。
上記の問題を感覚的に判り易くするための語り部としての位置を、今回犬養刑事とペアを組む25歳の女性刑事が担っていますが、この登場人物が感情的且つ直情的で、、、
個人的には全く好きに成れないタイプ。
まぁ、この辺りは読み手によって分かれると思いますが。
個人的には鬱陶しかったです。
シリーズとして登場人物には同じ方も多く、そのキャラクターの歴史の様なものを知っているので理解出来る部分も多々あり、上手くキャラクターが活かされています。
これは良く出来たシリーズ物の良い所ですね。
宜しければ3冊とも読んでみて下さいませ。
楽しめます。