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第9地区」のニール・ブロムカンプ監督がメガホンを握り、脚本、原作も彼ですので、非常にその色が出た作品です。
SF作品として、考えさせる部分を残しつつ、全体として娯楽作品としても完成度の高い映画に仕上がっていて、流石としか言い様が御座いません。
SF好きの方、ニール・ブロムカンプ監督作品が御好きな方は楽しめる映画だと思います。
SF(小説、映画、漫画等全てを含んで)では、古典から結構主題に成っているテーマ、自我とは、心とは、と云う重いテーマを核に持ちつつ、ドタバタ、アクション映画としても見事に成立させ、バトルアクションまで十分楽しめる娯楽作としての完成度の高さに驚かされます。
テーマがテーマだけに重い哲学的な映画に成っても不思議では無い所を、こう云う仕上がりに作り上げられる所がこの監督の素晴らしい所だと思います。
更に、舞台を南阿弗利加、ヨハネスブルグに置く事で(監督の生まれ育った街です)言い様の無い貧富の差や治安の悪い地域での人間模様までをも折り込んで、厚みのある作品に仕上がっていると思います。
意識とは何なのか、デカルトの「我思う故に我あり」と云う言葉に代表される実体二元論を踏まえつつ、SF的味付けと持って行き様でサラッと簡潔にストーリーに折り込んでしまった監督の凄さには、感動すら覚えました。
此処に引っ掛かって説明調の長台詞でも入れようものなら(SFには良くある事で、此の理屈っぽさや諄さがファン以外に嫌がれるポイントでは無いかと)、流れぶった切りで白ける所を、なんと見事な運びなのかと。
そして、何よりそのテーマの中心である主人公ロボット「チャッピー」のキャラクターがとてもキャッチーな事。
いやこれが無ければここまで素晴らしい作品に成り得なかったと思います。
赤ん坊同然、自己学習で発展していくAI、それを取り囲む人間達の多様性、其の心の動きがこの映画の面白さの中心です。
だから観客は自然と主人公ロボットに感情移入していきます。
此れも名作と呼ばれる映画の持つ一つの条件ですよね。
監督らしく細部に拘った映像は、良く出来た特撮と相俟ってリアルな作品世界を構築しています。
此処はSF映画としては重要な所で、リアルに感じられないと作品に引き摺り込まれません。
客観的に映画を観ても楽しめませんから。
そこに前述の様に非常に魅力的な主人公、人間味溢れる他の登場人物、悪役らしい悪役の敵役、名映画としての文法通りの構成です。
それ故、子供の様な純粋な、真っ当に判断出来ない、感情に溢れる主人公ロボットがとても可哀想に思えると思います。
引き込まれながら観ていると、中々示唆に富むラストへと流れて行くのですが。
で、監督は示唆するだけで非常に上手く物語を終わらせてしまいます。
相変わらず全然ハッピーエンドでは無い。
その終わらせ方も監督らしいのですが。
娯楽映画として観ても十分楽しめる映画だと思います。
勿論、穿った見方をすれば幾らでも違う側面を見せて呉れますし。
個人的にはとても良く出来たSF作品だと思います。
いや、面白かった。